「人生の途上で聴力を失うということ」

先日から「人生の途上で聴力を失うということ――心のマネジメントから補聴器、人工内耳、最新医療まで」という本を読んでいまして、昨日読了しました。

人生の途上で聴力を失うということ――心のマネジメントから補聴器、人工内耳、最新医療まで

もともとは、人工内耳の手術の前に購入してまして、入院中に読もうと思っていたんですが、耳鳴りが酷かったりして本を読むだけの集中力がなかったのと退院後は仕事やら何やらで割と忙しかったので、読了までずいぶんと時間がかかってしまいました。

著者はニューヨーク・タイムスの編集者かつライターの方で、おそらくは突発性難聴から失聴へと至るまでの自身の心理状況や補聴器や人工内耳の装着について、またアメリカを中心として現在難聴者へ対してどのようなケアが行われているかの取材などをまとめたものです。合間には、さまざまな難聴者の方のエピソードもあります。

一読した感想としては、端的に「難聴に対してどう感じるかは人それぞれ」ということでした。

著者の方は中途失聴なので聞こえていた自分と聞こえない自分とのギャップに相当苦しんでいて、うつ病も発症していたようですが、私の場合は本当に時間をかけてゆっくりと聞こえなくなっていったので、そこに大きな違いがあるなと感じました。

もちろん、私にしても著者の方と同様に、場面場面で聞こえないことに対して恥ずかしい思いをしたりとか、聞こえているふりをしている自分に嫌気がさしたりするとか、そういうことは多々ありましたが、私にとって会話でのコミュニケーションというのは、最終的に自分の目的を達成することが重要で、それが達成できれば細かい聞き間違えや聞き返しがあったとしても、すべての会話で一字一句間違えずに完璧に聞き取ることなんて健聴者でもできるわけがないんだから大した問題ではないと割り切ってしまっているので、ここまでの心理的な葛藤はなかったですね。

なので、著者の難聴に関する自分の心理の描写については少々うんざりするところもありましたが、それでもジャーナリストとして「なぜ聞こえなくなったのか」「どうやったら聞こえるようになるのか」についていろんな専門家へ話を聞きにいってまとめたその取材力には感嘆しました。今難聴の治療や聴力回復のためにどんなことが研究されているのかを知るにはいい本だと思います。

ただ、難聴者の人向けというよりは健聴者の方が難聴者がどんな気持ちで生きているかを知ってもらうための本であるようにも思います。そういう意味では、TwitterのTLで話題になった、「寂しいのはアンタだけじゃない」と近いのかもしれません(こちらは未読ですが)。

最後にものすごく気になったこと。著者は表紙では「ブートン(Bouton)」と記載されているんですが、本文では「バウトン」となってます。英語の発音的には「báʊtən」なので後者の方が正しそうですが、どちらが正しいとかではなくて、この辺はきちんと統一して欲しかったですね。